取消訴訟

 行政事件訴訟法において、取消訴訟には以下の2つがあります。
・行政庁の処分の取消しの訴え
・裁決・決定の取消しの訴え

行政庁の処分の取消しの訴え

 行政事件訴訟は、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(以下では、単に「処分」という)を取消訴訟の対象としています。
 ここでいう「処分」とは、行政作用法で学んだ行政行為とほぼ同じです。したがって、命令の制定、行政契約、行政指導等は、行政行為などにあたらず、処分に該当しません。これらの行為は、それだけでは、国民に対して何ら不利益を与えるものではないからです。
 ただ、国民の自由を拘束する権力権・継続的な事実行為(直接強制・即時強制による身体・財産への強制行為など)は、「処分」に該当します。これらの行為は、国民に対して不利益を与えるものとして、もはや見過ごすわけにはいかないからです。
 この点で、「処分」は、行政作用法で学んだ行政行為とは異なります。

裁決・決定の取消しの訴え

 行政事件訴訟法は、不服申立てに対する裁決・決定を取消訴訟の対象としています。憲法76条2項が、法の支配の見地から行政機関は終審として裁判を行うことができないとしていることを受けて、裁判所に最終判断権を与えたのです。

取消訴訟と不服申立て

 行政事件訴訟法に基づく取消訴訟と、行政不服審査法に基づく不服申立ての選択については、以下のように規定されています。

原則:自由選択主義

 つまり、どちらを選択してもかまいません。審査請求ができる場合でも、直ちに、取消しの訴えを提起できます。

例外

 個別法において、審査請求の裁決を経た後でなければ取消しの訴えを提起できない旨の定めがある場合は、審査請求前置主義なります。
 ただし、この場合でも、以下の場合は、裁決を経ないで、取消訴訟を提起できます。
・処分、処分の執行、処分の続行で生じる著しい損害を避けるため緊急の必要がある場合。
・審査請求から3カ月が経過しても裁決がない場合。
・その他裁決を経ないことにつき正当な理由がある場合。

処分の取消訴訟と裁決の取消訴訟

 行政事件訴訟法における処分の取消訴訟と、裁決の取消訴訟では争える内容に差異があります。

原則:原処分主義

 処分の違法性を争うときは、処分の取消し訴訟を提起します。これを原処分主義といいます。
 処分の違法を理由として裁決の取消しの訴えを提起することはできません。
 裁決に固有の違法がある場合に、裁決の取消しの訴えを提起できます。

例外

 個別法において、裁決の取消しの訴えのみを提起できるとされている場合は、裁決取消訴訟において、原処分の違法を主張できます。

取消訴訟の要件

 取消訴訟の訴訟要件とは、行政事件訴訟法における訴訟要件とは、訴えが適法である要件のことをいいます。
 これを欠く訴えは審理されず、却下されます。
 取消訴訟の訴訟要件には以下のものがあります。

処分性

 行政事件訴訟法において、取消訴訟は、行政庁の処分その他の公権力の行使に当たる行為を対象としています。
 したがって訴訟対象に処分性があるかどうかかが訴訟要件として重要となります。
 判例は、処分性の判断基準として以下を示しています。つまり、国・公共団体が行う行為のうちで「その行為により、直接、国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」
 また、ここの事例に関しては、以下のようになる傾向が大きくなります。
・事実行為⇒権力的な事実行為は、処分性が認められることがある
・行政契約⇒処分性は認められない
・行政の内部的行為(通達等)⇒処分性は認められない
・行政指導⇒ほとんどの場合で処分性は認められない(例外的に認められるケースもある)

原告適格

 行政事件訴訟法における原告適格とは、処分取り消しを求めて出訴できる資格をいいます。
 取消し訴訟の原告適格は、法律上の利益を有する者に限られます。ここでいう「法律上の利益」とは、法律上保護された利益のことをいいます。
 原告適格を有する者として、例えば以下のような者が挙げられます。
・不利益処分を受けた者(営業停止処分を受けた者など)
・申請拒否処分を受けた者(補助金の交付申請を拒否された者)
 取消し訴訟において、自己の法律上の利益と関係のない違法を理由として、取消しを求めることはできません。
 処分の相手方以外の「第三者」の場合についても(例えば、原子炉設置許可処分における、周辺住民など)法律上の利益があるかどうかで原告適格が判断されることがあります。
 その判断方法は、以下のようになります。
・当該処分または裁決の根拠となる法令の規定の文言
・法令の趣旨、目的
・当該処分において考慮されるべき利益の内容、性質
・法令の趣旨、目的を考慮するにあたっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときは、その趣旨、目的をも斟酌する
・利益の内容、性質を判断するにあたっては、根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容、性質、害される態様、程度をも勘案する

訴えの利益

 行政事件訴訟法において、訴えの利益があるとは、処分が取り消されたときに、現実に法律上の利益が回復される状態にあることをいいます。
 時間的経過、条件変化等により、もはや原告の救済に役立たない場合は、訴えの利益は認められません。
 訴えの利益が失われている場合には、例えば以下のような場合があります。
・建築確認処分の取消し⇒建築工事の完了により、訴えの利益は失われる
・生活保護法に基づく保護変更処分の取消し⇒本人の死亡により、訴えの利益は失われる

被告適格

 行政事件訴訟法に基づく取消訴訟は、処分、裁決をした行政庁の所属する行政主体(国または公共団体)を被告として提起しなければなりません。
 処分・裁決をした行政庁がいずれの行政主体にも所属しない場合は、当該行政庁を被告として提起しなければばりません。

出訴期間

 取消し訴訟の出訴期間は、処分・裁決があったことを知った日から6か月以内に提起しなければなりません。また、処分・裁決の日から1年以内に提起しなくてはなりません。
 なお、出訴期間経過後、不可争力が発生します。

裁判所の管轄に属する

 原則として、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所、または、処分・裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所の管轄に属します。
 ただし、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも、提起することができる場合があります。

取消訴訟の審理

 行政事件訴訟法の取消訴訟の審理は以下の通りに行われます。

要件審理

 取消し訴訟が提起されると、まず訴訟要件を審理します。要件が具備されて初めて本案審理に進みますが、要件を欠く場合、補正が命じられ、補正ができない場合、原告が補正をしない場合は、却下となります。

本案審理

 訴訟要件が具備されている場合、処分取消しの請求の当否の審理を行います。

 行政事件訴訟法は、審理手続について職権証拠調べ(24条)、釈明処分の特則(23条の2)を除いては、特に規定がありません。
 行政訴訟も民事訴訟と同じく対審構造を持つ訴訟として、民事訴訟法の諸原則が妥当すると考えられています。
 例えば、民事訴訟においては、裁判の基礎となる資料の収集は当事者の権能・責任です。裁判所は、当事者が主張しない事実を取り上げることはできないし、裁判所自ら証拠を収集することもできません。
 これを弁論主義いいます。行政訴訟においても基本的に、弁論主義で運用されます。
 ちなみに、弁論主義に対置される職権探知主義は、裁判の基礎となる証拠の収集等を裁判所の権限に委ねるものです。

取消訴訟の執行停止

 訴訟が提起されてから終結判決が下されるまで一定の期間を要します。この時間の経過の中で原告の権利を保護する仕組みを仮の救済制度といいます。
 民事訴訟法においては仮の救済制度として、民事保全法に基づく仮処分の制度があります。しかし、行政事件訴訟法では「民事保全法・・・に規定する仮処分はすることができない」とし、行政訴訟における仮の救済制度を規定しています。
 取消訴訟においては執行停止の制度がこれにあたります。

取消訴訟の判決と効力

 判決の種類の種類には以下のものがあります。

却下判決

 却下判決とは、訴訟要件を満たさないため、訴えを不適法として却下する判決をいいます。
 争われた行政処分の適法・違法に関する裁判所の判断は示されません。

認容判決

 認容判決とは、本案審理の結果、原告の請求に理由がある(行政処分に違法性がある)として、行政処分を取消す判決です。
 原告の請求の一部を認容する一部認容判決も認容判決の一種です。

棄却判決

 棄却判決とは、本案審理の結果、原告の請求に理由がない(行政処分に違法性がない)として、請求を認めない判決です。

事情判決

 事情判決とは、行政処分の違法性を認めつつ、原告の請求(処分の取消し)は認めない判決です。
 行政処分が違法であるなら、本来はその効力は否定されるべきであるが、
「これを取消すことにより公の利益に著しい生ずる場合において」
「原告の受ける損害の程度、その損害の賠償・・・方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取消すことが公共の福祉に適合しないと認める」
 場合に事情判決がなされます。
 ただし、事情判決を下す場合、当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければなりません。

 取消訴訟の判決の効力は、形成力、拘束力、既判力が問題となります。

形成力

 認容判決は、判決主文において「・・・の処分を取消す」と宣言します。
 つまり、認容判決が確定すれば、行政庁の特別な行為がなくとも、処分の効力は成立時に遡って消滅します。
 これを形成力といいます。
 取消判決は「第三者に対しても効力を有する」(行政事件訴訟法32条)ものであり、原告と利害が対立する第三者に対しても形成力の効力は及びます。
 このため、権利を害される第三者には訴訟に参加すること(行政事件訴訟法22条)や、第三者再審の訴え(行政事件訴訟法34条)が認められています。
 一方、原告と利益を共通する第三者については、訴訟参加の規定が設けられておらず、取消訴訟が原告個人の権利利益救済を目的とするものであるため、行政庁の行政行為が取り消されたとしても、全ての人との関係で取消されたものとなるわけではありません。

拘束力

 行政処分を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束します。これを拘束力といいます。
 例えば、地方公共団体に属する行政庁の処分に対する判決の拘束力は、国に属する行政庁にも及びます。
《消極的効果》
 判決で取消された行政処分と「同一内容、同一理由」の処分を行ってはならない。(反復禁止効)
 ただし、事情・理由・内容のいずれかが異なる場合は拘束力は及ばない。
 例えば、取消判決後に、「新たな処分理由」が発生した場合、これを根拠に、
 判決の効力と関係なく、原告に対し、より厳しい内容の不利益処分を行うことも可能。
《積極的効果》
 行政庁は、取消判決の趣旨に従って改めて措置を取るべき義務が生じる。
 例えば、申請拒否処分が取り消された場合、行政庁は、判決の趣旨に従って改めて申請に対する処分を行わなければならない。

既判力

 取消訴訟の終局判決が確定すると、既判力が生じ、当事者および裁判所は、後の裁判において、判決内容と矛盾する主張や判断をすることができない。
 認容判決があった場合は、行政庁は、同一の事情の下では、当該処分の適法性を主張することができず、棄却判決があった場合は、原告は、あらためて処分の違法性を主張することができない。

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