人権享有主体

 人権は人が人である以上、人種、性別、社会的身分等の区別に関係なく当然に享有できる普遍的な権利です。
 しかし、日本国憲法第3章では、権利の主体を「国民」に限定しています。ここにいう国民とは、形式的に日本国籍を有する自然人を指します。
 そこで、以下の人々が人権を享有する主体となりうるかが問題となります。
・日本国の象徴という特殊な地位にある天皇や皇族
・形式的に「国民」にあたらない法人
・外国人

天皇・皇族の人権

 天皇も皇族も、日本国籍を有する国民であり、人であることにはかわりありません。そのため人であることに基づいて認められる権利は保障されます。
 ただし、皇位の世襲と職務の特殊性といった点から、必要最小限の制限が認められると考えられます。

 たとえば、国政に関する権能を有しない天皇には、選挙権・被選挙権などの参政権は認められないとされます。
 その他にも、
・婚姻の自由
・財産権
・学問の自由
・表現の自由
 などが一定の制約を受けることも、天皇の地位と世襲制と職務の特殊性から合理的であるとされます。

 また、天皇・皇族に対する特例として以下のことが言えます。
 皇族男子の婚姻は皇室会議の議を経ることを必要とします。
 更に、皇位とともに伝わるべき由緒ある物は、皇位とともに、皇嗣(天皇の跡継ぎのこと)が、これを受けます。しかし、これは相続税の対象にはなりません。
 更に、一定の場合を除き財産の享受に国会の決議を必要とします。その上で、国庫から所得税を免除される内廷費・皇族費の支出を受けます。

法人の人権

 法人とは、法によって人と同等の地位を認められた団体をいいます。具体的には、社団法人や財団法人、あるいは会社などです。
 判例は、性質上可能な限り、法人にも人権は保障されるとしています。そこで、法人にも人権が保障されるかについては、その人権の性質ごとに検討していく必要があります。
 法人や団体は、強力な社会的権力になって自然人の人権を制限する場合があります。よって、自然人と同程度の保障が及ぶとすることは妥当ではありません。自然人よりの幅広く、積極的規制を加えることが許されると考えられています。

 法人の人権を考える場合、法人自身が人権を侵害する主体になる場合があります。
 1つは、マスコミ等の巨大な社会権力としての法人と、一個人のプライバシー等が問題になる場合です。
 もう1つは、法人内部の自然人に対して、法人が人権侵害することがあるのではないか、というものです。

 法人に保障される人権と保障されない人権は以下にようになります。

保障される人権

・経済的自由権
・請願権
・国務請求権(裁判を受ける権利、国家賠償請求権)
・刑事手続上の諸権利

保障されない人権

・生存権
・生命や身体に関する自由
・選挙権

【判例】八幡製鉄事件

判決年月日など

 昭和45年6月24日・最高裁大法廷判決

事案の概要

 八幡製鉄という会社の代表取締役と他1名が、会社の名において、とある政党に350万円を寄付しました。これに対して、同社の株主の一人が、代表起訴を提起し、会社の被った損害の賠償を求めました。

争点

 憲法が保障する人権は法人にも認められるかが争点となった事件です。この事件では、特に政治献金の自由が問題になりました。

結論

 憲法が保障する人権は法人にも認められると判決を出しました。

この事案のポイント

 最高裁の判決は、憲法第3条に定める国民の権利および義務は、性質上可能な限り、国内の法人にも適用されるものと解すべきとしました。

【判例】南九州税理士会政治献金事件

判決年月日など

 平成8年3月19日・最高裁第三小法廷判決

事案の概要

 南九州税理士会は、税理士法を有利なものに改正したいと考えました。そのため、政治工作資金として、南九州各県税理士政治連盟へ寄付するため会員から特別会費5000円を徴収しました。
 しかし、会員の一人が徴収に反対して、特別会費を払いませんでした。南九州税理士会は、会則に従いこの会員の選挙権・被選挙権を停止したまま役員選挙を実施しました。
 そこで、この会員は特別会費の特別会費を支払う義務があるかを確認するなどを求めて訴え出たのです。

争点

 この事件では、政治団体へ政治献金を行うことは、強制加入である税理士会の目的の範囲内の行為か。

結論

 目的の範囲外の行為である。

この事案のポイント

 法が税理士会を強制加入の法人としている以上、その構成員である会員には、様々な思想・主張を持つ者が存在することは当然ありえます。
 特に、政治団体に寄付するかどうかは、選挙における投票の自由と密接に関わりを持ちます。したがって、税理士会が政党などの政治団体に対して寄付することは、税理士会に有利な法律の整備をするためであっても、税理士会の目的の範囲外の行為であるとされます。

外国人の人権

 外国人は、自然人であっても、日本国籍を持っていません。そのため日本国民であるとは言えません。しかし、人ではあるので、人として認められる人権については当然、保障されなければなりません。
 判例は、権利の性質上、日本国民のみを対象としていると解されるものを除き保障されるとしています。
 外国人の権利については以下のように解されています。

入国の自由

 保障されていません。国際慣習法上、各国の裁量に委ねられます。

出国の自由

 22条2項の「何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。」を根拠として認められます。

再入国の自由

 保障されていません。ただし、再入国の許否を決めるにあたっての法務大臣の裁量は全くの自由でなく、一定の制約に従うとの考え方が有効です。

政治活動の自由

 日本国の政治的意思決定、またはその実施に影響を及ぼす活動等に関しては保障されません。しかし、それ以外の政治活動の自由については保障されるとしています。

参政権

 我が国に在留する外国人には与えられません。ただし、法律をもって地方公共団体の長や議会議員などに対する選挙権を定住外国人に認めることは、憲法上禁止されていないと解されています。

【判例】森川キャサリーン事件

判決年月日など

 平成4年11月16日・最高裁第一小法廷判決

事案の概要

 キャサリーンとは、原告となった女性の名前です。
 原告は日本人と婚姻し、日本に定住していましたが、国籍はアメリカ合衆国でした。
 原告は韓国への一時旅行ときに、すでに持っている日本の在留資格を継続保持するために必要な再入国許可を法務大臣に対し申請しました。
 ところが、事件当時に義務付けられていた、外国人に対する外国人登録原票への指紋押捺を拒否していたことを理由として再入国は不許可となりました。
 これにより、原告は処分の取消しと国家賠償を請求し提訴しました。
(なお、2000年4月1日に指紋押捺制度は廃止されました)

争点

 この事件では、外国人の再入国の権利が認められるかが争点となりました。
 また、指紋捺印拒否を理由とした法務大臣の再入国不許可処分は妥当か否かも争点となりました。

結論

 我が国に在留する外国人には、再入国の自由は憲法上保障されていないと判決が出されました。
 また、指紋捺印拒否を理由とした再入国不許可処分は、当時の社会的観念に照らして著しく妥当性を欠くとはいえず、違法性はないと判断しました。

【判決】マクリーン事件

裁判年月日など

 昭和53年10月4日・最高裁大法廷判決

事案の概要

 マクリーンとは原告となった外国人男性の名前です。
 原告は、日本に語学学校の講師として在留していました。在留期間の更新を申請したところ、反戦集会・デモに参加したことから更新が許可されませんでした。

争点

 この事件の争点は、外国人にはどこまでの範囲の人権が保障されるかというものです。特に政治活動の自由が問題となりました。

結論

 外国人に残留する権利は保障されないという判決がでました。また、外国人の政治活動の自由はわが国の政治的意思決定またはその実施に影響を及ぼす活動等を除き保障されるとしました。

この事案のポイント

 判決は、外国人の政治活動について、
「わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみてこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶ」
 としました。
 つまり、外国人の政治活動を認めることは認めるけれど、場合によっては日本から出て行ってもらうことがある、ということです。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする