司法権の限界

 司法権の限界とは、法律上の訴訟として司法権の範囲に含まれる事案であっても例外的に裁判所が司法審査をできない場合についての問題をいいます。
 司法権の限界には、以下のものがあります。
・憲法明文上の限界
・国際法上の限界
・憲法解釈上の限界
・部分社会の法理

憲法明文上の限界

 憲法明文上の限界には、以下のものがあります。

議員の資格訴訟の裁判

 議員の資格訴訟は、議院の自律権の問題となります。よって、各議院で判断することとなります。

裁判官の弾劾裁判

 裁判官の弾劾裁判とは、裁判官にその職を辞めさせるか否かを審判することをいいます。
 裁判官の弾劾裁判について、衆議院の議院からなる弾劾裁判所が設置されます。よって、通常の裁判所では審判されません。

国際法上の限界

 国際法上の限界には、治外法権や条約による裁判所の制限があります。
 例えば、外国から来た外交官が日本で犯罪を犯した場合、当然具体的な訴訟事件であり、司法権の範囲に含まれます。しかし、外交官には治外法権が認められています。これにより日本の裁判所は、原則として裁判ができないという問題があります。

憲法解釈上の限界

 憲法解釈上の限界には、以下のものなどがあります。

自律権に属する行為

 自律権とは、懲罰や議事手続など、国会または各議院の内部事項について自主的に決定できる権能をいいます。
 判例は、国会内部での議事手続について裁判所は審査できないと解しています。

自由裁量に属する行為

 国会や内閣などの自由裁量に属する行為については、原則として裁判所の司法審査が及ばないとされます。ただし、裁量権を著しく逸脱、濫用した場合は例外です。
 自由裁量に属する行為には、例えば内閣総理大臣の任命・罷免や、内閣総理大臣による国務大臣の訴追の同意などが挙げられます。

統治行為論

 統治行為論とは、国家機関の行為のうち、極めて高度に政治性のある行為は、裁判所の司法審査の対象にはならないことをいいます。
 判例は、権力分立を根拠として統治行為の存在を肯定しています。
 当地行為論に関した判例として有名なものには、苫米地事件や砂川事件があります。

部分社会の法理

 部分社会の法理とは、一般市民秩序と直接関連しない純然たる内部紛争は、司法審査の対象にはならないという考えをいいます。
 例えば、学校には校則というルールがあり、それに基づく秩序があります。また学校の中にはいくつかの部活動があり、その中にも規則が存在します。このような部分社会での争いは、原則として団体の自治に委ねた方が妥当です。
 ただし部分社会の内部紛争であっても、一般市民秩序にかかわるものには司法審査が及びます。
 部分社会の法理に関した判例で有名なものには、地方議会議員懲罰の司法審査や共産党袴田事件があります。

【判例】苫米地事件

判決年月日など

 昭和35年6月8日・最高裁大法廷・判決

事案の概要

 昭和27年、第3次吉田内閣は衆議院を解散しました。これは日本国憲法が成立して初めての憲法7条に規定される、内閣不信任に基づかない解散でした。
 原告である苫米地義三は当時衆議院議員でしたが、この解散により失職しました。
 憲法7条による衆議院解散は初めてのケースであったため、原告は同第69条によらない解散は憲法に違反するという訴えを出しました。

争点

 この事件では、主に衆議院の解散は司法審査の対象になるかが争点となりました。

結論

 最高裁は原告の訴えを却下しました。

この事案のポイント

 最高裁判所は、衆議院の解散は衆議院の解散は司法審査の対象とはならないとしました。
 衆議院の解散は、極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為です。よって、その法律上の有効無効を審査することは、司法裁判所の権限の外にあるとしました。

【判例】砂川事件

判決年月日など

 昭和35年12月16日・最高裁大法廷・判決

事案の概要

 昭和32年に起きた刑事事件です。
 在日米空軍が当時使用していた立川飛行場を拡張するための測量に反対する抗議行動が、同基地周辺で行われました。その際にデモ隊員の一部が基地内に侵入。彼らは安保条約刑事特別法2条違反とされました。

争点

 この事件では、日米安保保障条約は違憲審査の対象となるかなどが争点となりました。

結論

 最高裁判所は、日米安保保障条約は違憲審査の対象にはならないとしました。

この事案のポイント

 日米安保保障条約は、主権国としての日本の存立の基礎に極めて重大な問題です。そのため、その判断には高度な政治性を有するべきものです。したがって、この条約を締結した内閣や、これを承認した国会の高度な政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす点が少なくありません。それゆえ、違憲か否かの法的判断は、裁判所の司法審査権の範囲外にあるとしました。

【判例】共産党袴田事件

判決年月日など

 昭和63年12月20日・最高裁・判決

事案の概要

 被告である袴田里見は長年日本共産党の党員でした。
 彼は、党規律違反のため、除名処分を受けました。
 その際、彼は党所有の家屋に居住していたため、党が家屋の明け渡しを求めて提訴しました。
 原審は請求を認容したため、被告側は上告しました。

争点

 この事案では、政党の党員の除名処分は司法審査の対象となるかが争点となりました。

結論

 最高裁判所は、原則として、政党の党員の除名処分は司法審査の対象とはならないとしました。

この事案のポイント

 政党が党員に対して下した処分は、一般市民秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及びません。この事案では、政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するとは言えません。よって、最高裁判所は、そもそも審査の対象とはならないとしました。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする